Ubuntu 26.04 LTS「Resolute Raccoon」の新機能まとめ
Ubuntu は Canonical が開発する Debian ベースの Linux ディストリビューションで、デスクトップからサーバー、クラウドまで幅広く使われています。なかでも 2 年ごとの 4 月にリリースされる LTS(Long Term Support)版は、長期サポートと安定性を重視する現場の定番です。その最新版である Ubuntu 26.04 LTS が 2026 年 4 月 23 日に正式リリースされました。コードネームは「Resolute Raccoon(不屈のアライグマ)」。本記事では、24.04 LTS から何が変わったのかを整理します。
コードネームとサポート期間
コードネームの「Resolute(不屈)」は、2026 年 1 月に亡くなった Ubuntu 開発の中心人物 Steve Langasek(Vorlon)の人物像にちなんで選ばれたものです。複雑な課題に粘り強く取り組む彼の姿勢と、コミュニティの粘り強さを重ねた名前になっています。
LTS 版らしく、サポート期間は手厚く設定されています。
- 標準サポートは 5 年間(2031 年 4 月まで)。対象は Ubuntu Desktop / Server / Cloud / WSL / Core。
- 公式フレーバー(Kubuntu や Xubuntu など)は 3 年間。
- さらに Ubuntu Pro を使えば ESM(Expanded Security Maintenance)で最長 10 年までセキュリティ更新を延長できます。
個人利用や小規模なら Ubuntu Pro は無償枠で利用できるので、サポート切れが気になる場合は登録しておくと安心です。
カーネルとデスクトップ環境
土台となるカーネルは Linux 7.0 に更新されました(24.04 の 6.8 系から大きく前進)。リアルタイムカーネルが main アーカイブから提供され、ARM64 でも Kernel Livepatch(再起動なしのカーネルパッチ適用)に対応しています。
デスクトップ環境は GNOME 50 を採用。可変リフレッシュレート(VRR)やフラクショナルスケーリングに対応し、小さい画面でのサポートも改善されました。そして大きな節目として、ディスプレイサーバーは Wayland がデフォルトになりました。Canonical は upstream の X.org から Wayland への移行が完了したと位置づけています。X11 依存のアプリを使っている場合は、互換レイヤー(Xwayland)越しの挙動を事前に確認しておくとよいでしょう。
APT 3.1 と systemd 259
パッケージ管理の APT は 3.1 になりました。従来の依存解決ソルバが解けないケースでは新しいソルバが自動的に使われるほか、apt history-redo / apt history-rollback といった操作履歴を扱うコマンドが追加されています。アップグレードで問題が起きたときに直前の操作を巻き戻せるのは実用的です。
# 直近の apt 操作を巻き戻す
sudo apt history-rollback
systemd は 259 に更新され、ここでいくつか重要な整理が入りました。
- cgroup v1 のサポートが削除されました。古いコンテナ設定などで cgroup v1 に依存している場合は要注意です。
- System V(SysV)init スクリプト互換をサポートする最後のリリースであることが明言されています。古い init スクリプトを抱えているなら、この LTS のサポート期間中に systemd unit へ移行しておくのが安全です。
Rust 製コンポーネントの拡大
26.04 LTS の目玉のひとつが、システムの中核ツールを Rust 製(memory-safe)に置き換える取り組みです。
ls や cat などを提供する coreutils が、Rust 実装の uutils(rust-coreutils)にデフォルト切り替えされました。ただし cp / mv / rm の 3 つだけは GNU coreutils のままです。これは未解決の TOCTOU(time-of-check to time-of-use)系の脆弱性が残っていたためで、外部監査を経たうえでの慎重な判断です。Canonical は次の 26.10 で 100% rust-coreutils 化を目標に掲げています。
加えて、sudo も Rust 実装の sudo-rs がデフォルトになりました。パスワード入力時のフィードバック(* の表示)がデフォルトで有効になっているなど、細かな挙動の違いがあります。スクリプトやプロビジョニングで sudo のオプションを多用している場合は、互換性を確認しておくとよいでしょう。
このほか Rust 製のカーネルドライバや、画像読み込みライブラリの glycin 化など、地道な memory-safe 化が進んでいます。「初めて memory-safe なシステムコンポーネントを本格的に広げた LTS」というのが Canonical の位置づけです。
開発ツールチェーンの更新
開発者にとって重要な言語ランタイム・コンパイラも軒並み新しくなりました。公式リリースノートで確認できる主なバージョンは次のとおりです。
- Python 3.14
- GCC 15.2 / LLVM 21
- glibc 2.43
- Rust 1.93
- OpenJDK 25 / .NET 10
- OpenSSL 3.5.6
特に Python は 3.12 から 3.14 へと一気に進んでいるので、システム Python に依存するスクリプトは動作確認をおすすめします。本番環境では言語ランタイムを OS 同梱に頼りすぎず、pyenv やコンテナで固定しておくと、こうした更新の影響を受けにくくなります。
セキュリティ強化
セキュリティ面では、**TPM ベースのフルディスク暗号化(TPM-backed Full Disk Encryption)**が改善され、PIN のサポートやリカバリキーへの対応が統合されました。TPM チップを持つマシンなら、起動時のパスフレーズ入力なしで暗号化を運用しやすくなっています。
また OpenSSL 3.5 系では ポスト量子暗号(ML-KEM、ML-DSA、SLH-DSA)に対応しました。将来の量子計算機による解読リスクに備えるアルゴリズムが標準で使えるようになった形です。
アップグレード方法
新規インストールは公式サイトから ISO を入手すれば済みますが、既存環境からのアップグレードは段階を踏みます。
まず現状を確認し、パッケージを最新化します。
# 現在のバージョンを確認
lsb_release -a
# 既存のパッケージをすべて最新へ
sudo apt update && sudo apt full-upgrade
# リリースアップグレードを実行
sudo do-release-upgrade
注意点として、24.04 LTS 利用者への自動アップグレード提供は、最初のポイントリリース 26.04.1 のタイミング(2026 年夏ごろの予定)になります。それまでは手動で do-release-upgrade -d 相当の操作が必要です。また 24.04 LTS より古いバージョンや 25.10 からは、いったん 24.04 LTS か 25.10 を経由してから 26.04 LTS へ上げる方針になっています。飛び級アップグレードはできないので、間隔が空いている場合は中継リリースを挟みましょう。
本番サーバーでは、いきなり全台を上げず、検証環境やバックアップ(スナップショット)を取ったうえで段階的に進めるのが鉄則です。
まとめ
Ubuntu 26.04 LTS は、Linux 7.0・GNOME 50・Wayland デフォルト化といった土台の刷新に加えて、coreutils や sudo の Rust 化という方向性を打ち出した節目の LTS です。systemd の cgroup v1 削除や SysV init 互換の終了予告など、古い資産の整理も進んでいます。長期サポートの安定版として今後数年の標準になる版なので、移行は焦らず、互換性を確認しながら進めるのがよさそうです。